【産業廃棄物】委託先の違反に巻き込まれる典型事例|イーバリュー株式会社

【産業廃棄物】委託先の違反に巻き込まれる典型事例

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【産業廃棄物】委託先の違反に巻き込まれる典型事例

「産業廃棄物の排出事業者責任は非常に重く、たとえ費用を支払って委託したとしても、免れられるものではない」という注意喚起は、これまで何度もお伝えしてきました。しかし、全ての担当者が明確に危機感を持って対応しているか…というと、なかなか厳しいものがあるかと思います。どこか「自分たちは大丈夫だろう」という意識を持っていたりするのではないでしょうか。

先日、「巻き込まれたとしても排出事業者に責任が追求される」典型例とも言えるニュースがありました。この事例をもとに、排出事業者責任を再確認します。

排出事業者への撤去命令

福岡県は、2023年12月28日付けで中間処理業者が過剰に保管した産業廃棄物について、排出事業者8社に対し、撤去を求める「措置命令」を発出しました。県の発表によると、経緯は下記のとおりです。

表1:県発表による経緯概要(福岡県発表)

許可された容量を超過し、過剰に保管した廃棄物から火災が発生、鎮火まで27日間も要するという大規模な事件でした。更に問題なのは、この中間処理業者は県から撤去命令を受けましたが、まもなく廃業、対象の廃棄物が撤去されず、宙ぶらりんの状態になってしまったことです。その後、この中間処理業者に委託した排出事業者に対して撤去要請があり、多くの事業者がこれに応じたと見られます。

しかし、一部の排出事業者は要請に応じませんでした。この時点で、県からのアプローチはあくまで「要請」であり、強制力はありません。要請に応じないこと自体は問題ありません。そして、この「撤去要請に応じなかった排出事業者」のうち、8社に対して、県から措置命令が下りました。

「要請」とは異なり、「措置命令」には法的拘束力があります。命令に従わなければ「5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」に発展する可能性があります。各社の命令された撤去量は様々ですが、福岡県のHPでは社名も公表されており、撤去にかかるコストに加えて、企業として信頼低下のリスクも大きいと言えます。

事件の詳細を理解せず「行政から廃棄物の撤去を命令された」という情報だけを聞けば、専門知識のない一般市民は、ネガティブイメージを抱くでしょう。

措置命令の根拠

県は、措置命令の理由として以下の2点を挙げています。

・委託基準違反:委託契約書における法定記載事項の不記載
・管理票に係る義務違反:管理票の交付者が講ずべき措置違反(虚偽の管理票の送付を受けた等にもかかわらず、適切な措置を講じていない)、管理票法定記載事項の不記載等

要するに、契約書やマニフェストに不備があったから、不法投棄の責任をとらされた…ということです。

不法投棄や不適正処理された廃棄物は“行政代執行”として行政によって撤去されることもありますが、これは最終手段です。その前に「不法投棄などの実行犯」や「排出事業者」に対して撤去を求めます。しかし、実行犯は今回のケースのように廃業し、撤去能力がない場合がほとんどですから、ほぼ全てのケースで「排出事業者責任」に則して排出事業者へ責任追及が行われます。

排出事業者責任は廃掃法上で「事業者はその事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない(法第 3 条の1)」と表現されています。そのため「他人に委託したとしても、委託先で適正処理できない場合は、委託した側(排出事業者)に責任がある」ということです。

責任追及の方法は、法第19条の5及び6に規定する措置命令で定められています。これらの条件に照らして、自らの責任を全うしていることが証明できない場合、“措置命令”として不法投棄された廃棄物の除去等を命じられてしまう可能性もあるのです。

今回のケースでは、廃棄物処理法第19条の5第1項を根拠として措置命令が発出されています。

法第19条の5第1項

産業廃棄物処理基準又は産業廃棄物保管基準に適合しない産業廃棄物の保管、収集、運搬又は処分が行われた場合において、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、都道府県知事は、必要な限度において、処分者等に対し、期限を定めて、その支障の除去等の措置を溝ずべきことを命ずることができる。

措置命令の対象として、具体的には下記の事項等が定められています。

・不法投棄等を行った者
・不適正な委託により当該処分が行われたとき、その委託をした者
・マニフェスト又はマニフェストの写しを保存しなかった者
・マニフェストの確認義務に違反し、適切な措置を講じなかった者 等

自主撤去が多い理由

今回のケースに限らず、法的拘束力のない「撤去要請」に応じる企業は多いです。しかし、今回の8社はおそらく「撤去要請」に納得できなかったのではないでしょうか。

各社の思惑はわかりませんが、撤去要請に従わない場合、先述の通り「措置命令」の対象となるかを検討されます。そのためには、行政が「立入検査」を行うなどして、「措置命令」できるだけの材料がないかを探します。

廃棄物処理法第19条第1項

都道府県知事又は市町村長は、この法律の施行に必要な限度において、その職員に、事業者、一般廃棄物若しくは産業廃棄物若しくはこれらであることの疑いのある物の収集、運搬若しくは処分を業とする者その他の関係者の事務所、事業場、車両、船舶その他の場所、一般廃棄物処理施設若しくは産業廃棄物処理施設のある土地若しくは建物若しくは第十五条の十七第一項の政令で定める土地に立ち入り、廃棄物若しくは廃棄物であることの疑いのある物の保管、収集、運搬若しくは処分、一般廃棄物処理施設若しくは産業廃棄物処理施設の構造若しくは維持管理若しくは同項の政令で定める土地の状況若しくは指定区域内における土地の形質の変更に関し、帳簿書類その他の物件を検査させ、又は試験の用に供するのに必要な限度において廃棄物若しくは廃棄物であることの疑いのある物を無償で収去させることができる。

行政が事業所に入ってきて、契約書やマニフェストなどを隅々までチェックします。私の経験上、全く記載ミスなどのないケースはほとんどありません。何かしらのミスが見つかり、それを理由に措置命令を発出される、さらにはそのミス自体や全く関係のない別件について、直接取り締まられる可能性もあります。

こうなると、「撤去要請」に応じず、「措置命令」の対象にもならず、全く撤去に関して負担しないという結末を狙うのは、分の悪い賭けではないでしょうか。そのため、「撤去要請」を受けた段階で、応じてしまう企業が多いのです。しかも、今回の措置命令は撤去要請から5年以上経過しています。長期間保留状態というのも、心理的負担が大きいですね。

対策は委託先選定の段階で

「措置命令」の対象にならないということは、委託契約書やマニフェストに代表される廃棄物管理が完璧でなければならないと言っても過言ではありません。かなりハードルが高いことですし、100%の保証は誰にもできません。そのため、不法投棄や不適正処理などに巻き込まれてしまった段階では、効果的な打開策はありません。

委託先選定の段階で、管理体制を厳しくチェックする、定期的な実地確認で保管量の増減を把握するなど、そもそも巻き込まれない対策の方が、よほど効果的です。

これも確実な方法がないというのが、排出事業者責任の厳しいところですが、同じ労力をかけるのであれば、少しでも効果的にリスクを低減できる方法を考えていきましょう。

Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー

セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。