溶接ヒューム規制① ―対象作業編―

溶接ヒューム規制① <br>~対象作業編~

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溶接ヒューム規制①
~対象作業編~

溶接ヒュームは、令和3年4月1日以降、段階的に規制強化の改正が施行されています。
規制が強化されているのは「屋内継続作業」と言われる作業です。
この作業について、実務に落とし込む段階でさまざまな問い合わせをいただいています。そこで、溶接ヒューム規制について、複数回にわたってポイントをご紹介していきます。

第一回は、対象となる「屋内継続作業」とはどんなものなのか?です。

金属アーク溶接等作業とは

まず、大前提として対象となる作業を確認しておきましょう。

・金属をアーク溶接する作業
・アークを用いて金属を溶断し、またはガウジングする作業
・その他の溶接ヒュームを製造し、または取り扱う作業

これらが「金属アーク溶接等作業」とされています。一方で「燃焼ガス、レーザービーム等を熱源とする溶接、溶断、ガウジングは含まれない」とされています。
この「金属アーク溶接等作業」では「溶接ヒューム」が発生します。
溶接ヒュームとは「金属アーク溶接等作業で加熱により発生する粒子状物質」のことです。溶接ヒュームには発がん性があり、溶接ヒュームに含まれる「酸化マンガン」は神経障害を引き起こすおそれがあることがわかったため、新たに特化則の特定化学物質に指定されました。

屋内継続作業とは?

まず、対象となる事業者は「屋内作業場等において、金属アーク溶接等作業を継続して行う事業者」とされています。
この「屋内作業」と「継続作業」の定義について、多くの方が迷っているようです。以下で詳しく解説していきます。

屋内作業

屋内作業は、以下のいずれかに該当する作業であるとされています。
・作業場の建屋の側面の半分以上にわたって壁、羽目板その他の遮蔽物が設けられている場所
・ガス、蒸気または粉じんがその内部に滞留するおそれがある場所

「側面の半分以上」が壁などで囲まれていると屋内とみなされるので、例えば「コの字型」の倉庫などは屋内です。
広い開放部があるからといって、屋外とはみなせない点は注意が必要です。

もう一つの条件は「内部に滞留するおそれ」と、建物の基準ではなく、「滞留」という「状態」をさらに「おそれ」としているので、かなり曖昧な印象ですね。
完全に開けた屋外で作業するのであれば問題ないですが、「これは屋外?」と悩むようなケースでは、より慎重に判断したほうが良いですね。

継続作業

継続作業については、条文や通知文などで明確な基準は見受けられません。だからこそ、迷う部分が多いのだと思います。
ここで、突然ですがケーススタディです。

<ケーススタディ>
工場内に固定されたある工業機械は同じ箇所が不定期に故障し、溶接作業によって修理している。
修理頻度は年に1~2回程度だが、これは「継続して行う作業」にあたるのだろうか?

このケースでは、年1~2回という頻度でも「継続」にあたるのか?という点がポイントです。
このケースでは、複数の自治体に聞き取り調査を行いましたが、多くの自治体が「継続作業にあたる」という見解でした。

・場所が同じであること
・(頻度が低くても)反復継続する作業であること

上記2点が判断のポイントです。
反対に当てはまらない作業はどのようなものが想定されるのかというと…

・広い工場内の離れた場所で発生する溶接作業
 例:50m離れた別の機械を溶接修理する
・建設工事の現場で溶接する(工事が終われば溶接作業が発生しないため「継続」ではない)

のようなケースが考えられます。
このように「同じ場所」と「反復継続する」という点が判断要素となります。少なくとも事業場内に「溶接作業台」のような場所があり、そこで作業をする場合には当てはまります。
その他のケースは、上記のポイントを踏まえてケースバイケースで考えましょう。

番外編:自動溶接の場合は?

では、「同じ場所」で「反復継続する」作業であっても「ロボットによる自動溶接」の場合はどうでしょうか?
ロボットによる自動溶接については、「基発0422第4号」で言及されています。

なお、自動溶接を行う場合、「金属アーク溶接等作業」には、自動溶接機による溶接中に溶接機のトーチに近付く等、溶接ヒュームにばく露するおそれのある作業が含まれ、溶接機のトーチ等から離れた操作盤の作業、溶接作業に付帯する材料の搬入・搬出作業、片付け作業等は含まれないこと。

ロボットによる自動溶接は、装置から離れた操作盤の作業などについては、対象作業に含まれないとされています。
しかし、自動溶接であっても、溶接機のトーチなどに近づく可能性がある場合は、ばく露があると考えて対象作業となります。

Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー

セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。