【産業廃棄物】委託先の違反に巻き込まれる典型事例
「産業廃棄物の排出事業者責任は非常に重く、たとえ費用を支払って委託したとしても、...
コラム
先日、こんなニュースがありました。
いわゆる「労災隠し」のニュースです。しかし、労災そのものを隠すのではなく、発生場所を偽って報告しています。
なぜ、このようなことをする必要があったのでしょうか?本コラムでは組織体質や組織文化の観点から、考察していきたいと思います。
労災が発生した場合、事業者は労基署への報告義務があります。
そして、報告をもとに労基署が労災発生場所の調査を実施する場合があります。
今回のケースで、労災の発生場所を偽ったということは、おそらく「本来の発生場所を調査されたくなかった」と考えてよいでしょう。
では、なぜ本来の発生場所を見せたくなかったのか?ここからは予想の範疇を出ませんが…例えば以下のような2つの理由が考えられます。
①現場が明らかな違法状態であった
本来必要な安全設備が用意されていないなど、現場に明らかな違法状態がある場合、調査によってさらなる取締まりの対象となる可能性があります。
そのため、調査されても問題ない場所で労災が発生したことにする可能性があります。
②元請など関係者から圧力があった
どんな現場でも、労災はないに越したことはありません。しかし「ゼロ災」を強く意識しすぎるあまり「労災の発生などあってはならないことだ」という圧力が発生するケースもあります。
特に工事現場では、元請業者の管理責任も問われるため、優越的地位にある元請が労災を認めないという可能性もあります。
もしくは、元請から具体的な指示がなかったとしても、今後の取引継続が危うくなるなどのリスクを考え、労災の発生を言い出せずに別の場所で怪我をしたことにする…という可能性もありますね。
余談ですが、筆者が小学生の頃、あるクラスの担任教師が「欠席者ゼロ日数」をカウントしていました。(目標達成すると学期末に何らかのご褒美があった記憶があります)
このように、理想の状態を強く標榜するあまり、都合の悪い事実をなかったことにする力が働くことがあります。
労災隠しのみならず、企業コンプライアンスは社員一人ひとりの「正しい順法意識」が何より重要です。
しかし「コンプライアンスを徹底せよ」の一言で終わるような単純な話ではありません。
コンプライアンスを強化するために必要な「知識」は教育などで伝えることができます。しかし、それを実行に移すには大きなハードルがあります。
それは、職場の体質…空気といっても良いかもしれません。読者の多くが「安全環境部」のように、安全や環境を専門とする管理部門に所属していると思います。
皆さんの職場の空気感はどうでしょうか?
どんな職場も「安全第一」を掲げています。
しかし「急いでいるから手順を飛ばした」「コストがかかるから安全設備を設置しなかった」「人手が足りないから無資格者に作業させた」などの、安全第一に行動しなかった結果が事故につながった事故事例は、枚挙に暇がありません。
環境でも同様です。
廃棄物処理法や水質汚濁防止法などの厳しい環境法の規制内容を伝えても「こんな細かなことで本当に罰せられるの?」「そこまでやってたら仕事が回らないよ」「(適法に対応する準備ができていなくても)こんなことで製造は止められないから…」という声を聞きます。
これらの言動に共通するのは「(結果として)コンプライアンス以外のものを優先している」ということです。
時間やコストなど、短期的なメリットを追ってしまったり「製造部門に迷惑がかかる」といった周囲との摩擦を避けるパターンもあります。
「安全第一」や「コンプライアンス徹底」という言葉は掲げていても、結果としてコストや時間などを優先してしまう空気があるのかもしれませんね。
こうした空気を作ってしまう要因は、ケースバイケースであり一概に言えるものではありません。
例えば「法律を調べてみたんですけど、〇〇するべきじゃないですか?」という意見が出てきたときに、周囲がどのような反応をするかというレベルでも変わってきます。
明らかに嫌そうな反応をした場合は、その人は次から言い出せなくなりますね。
管理部門が法改正の情報を現場に展開したときに「こんな無茶な要求をされても困る」というクレームが返ってくるケースもあります。
法律のクレームを社内で言われても困ってしまうのですが、これもやはりコンプライアンスからは遠ざかってしまいます。
反対に、企業として大切にすべき物事の優先順位をしっかりと明文化し、それだけでなく日頃から積極的に伝え続ける活動をしている企業は、意見や行動がどんどん良くなっていく好循環が生まれます。
例えば「安全に必要な対策設備を常に改善・更新し続ける」という趣旨のメッセージを明文化し、管理部門から現場に対して頻繁に「何か危険を感じる箇所はないか?」と確認します。
そして、現場から出てきた意見の多くが採用されれば、次からも安全のための意見が言いやすくなります。
企業体質や文化といった職場の空気は、一朝一夕で変えられるものではありません。
世の中には不祥事を繰り返したり、またそれを隠していたことが発覚し「隠蔽体質」と世間から評価されてしまう企業が存在するのも事実です。
だからこそ、日常からしっかりと力をかけ続けて、自社や自部門が大切にするべきことをじっくり根気よく浸透させていく必要があります。
掲げた理念やスローガンを、日々の業務を活動を通して現場に落とし込むことで、それが空気を変え、長期目線では大きな差になっていきます。
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。