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廃棄物処理費の「一律コスト削減」はなぜリスクなのか──不法投棄・取適法から考える適正価格

基準時点:令和8年7月現在(最終更新:令和8年8月7日)

「今期は一律◯%のコスト削減を」——本社の指示で廃棄物処理業者へ値引きを求めていませんか。しかし理由や条件のない一律の値引き要請は、かえって不適正処理や不法投棄のリスクを高めるおそれがあります。
本記事では、単なる値引き要請ではなく「条件の見直し」でコストを下げる進め方を解説します。

結論
廃棄物処理委託費を、明確な理由や条件なしに一律◯%で値引き要請することは、リスクが高く、慎重に検討すべきです。過度な値引き要請は処理業者の適正処理を困難にし、不適正処理や不法投棄につながるリスクを高める可能性があります。
その理由は、処理費用を確保できない状況が不法投棄の背景事情の一つとなったと報じられる有罪判決の事例が実在すること、そして廃棄物処理業が「利益の出ない価格でも受注せざるを得ない」費用構造をもつことにあります。
加えて、2026年1月施行の取適法(旧・下請法)も、価格決定での十分な協議を重視しています。

この記事で分かること

  • 明確な理由や条件のない一律の値引き要請が、処理業者の適正処理を困難にし不適正処理・不法投棄を招くリスク
  • 「物とお金を先に受け取り、原価を後から支払う」廃棄物処理業の費用構造と、利益が出ない価格でも受注しうる理由
  • 2026年1月施行の取適法(旧・下請法)が示す、価格決定での十分な協議を重視する考え方と一方的な値引きへの評価
  • 一律の数値目標ではなく、回収頻度・配車指定・荷姿などの「条件の見直し」でコストを下げる進め方
  • 有価物化でコスト削減を図る際の注意点と、慎重なリスク評価の必要性

「本社の指示だから」と処理業者に値引きを求めていませんか

経済に不安材料があると、排出事業者から廃棄物処理業者へ「今期、一律◯%のコスト削減目標が本社から出ているので協力してほしい」という値引き要請が入ることは珍しくありません。この「ご協力」とは処理費用の値引きを指します。

しかし、明確な理由や条件のない値引き交渉にはリスクがあります。過度な値引き要請は、処理業者が適正な処理を続けることを難しくし、結果として不適正処理や不法投棄のリスクを高める可能性があります。次に挙げる不法投棄の有罪判決事例は、そのリスクを示す一例です。

経費不足が背景にあったとされる不法投棄の判決事例(廃乳7トン不法投棄・神戸地裁)

【廃乳7トン不法投棄 元副場長に有罪判決 神戸地裁】

毎日新聞の報道(2020年11月27日)によれば、牧場敷地内に商品化できない牛乳約7トンを不法投棄したとして、廃棄物処理法違反に問われた元副場長に対し、神戸地裁は懲役1年2か月・執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。裁判官は「六甲山の地下水や河川、瀬戸内海を汚染する恐れがあり、刑事責任は重い」と指摘しています。被告は2016年4月〜2018年8月、同罪で起訴された別の元副場長らと共謀し、食品に加工できない牛の乳計約7トンを288回にわたり牧場の土中に流したと報じられています。

廃棄した牛乳は当初、浄化槽に流していましたが、排水が基準値を超え、2015年に市から改善勧告を受けました。浄化槽の保守管理責任者だった被告は「公社に廃棄乳を産業廃棄物として処理する経費がない」と判断し、部下に土中への廃棄を指示したとされます。

この事例について、判決で経費不足そのものが違法性の理由とされたわけではありません。ただし報道内容を前提とすれば、本件では、処理費用を確保できない状況が不法投棄の背景事情の一つであったと考えられます。この事例は価格交渉そのものが争点となったわけではありませんが、処理費用を確保できない状況や管理体制の不備が重なると、不適正処理につながりうることを示す事例といえるでしょう。

なぜ処理業者は「利益が出ない価格でも受注する」ことがあるのか(廃棄物処理の費用構造)

廃棄物処理業では、経営状況によっては、十分な利益を確保できない価格でも受注せざるを得ないケースがあります。処理業者が値引きに応じたからといって「まだ余裕がある」と考えるのは早計です。その背景には、この業種特有の費用構造があります。

一般的な売買やサービスは「物・サービスを提供して費用を受け取る」お金との交換です。一方、廃棄物処理業は「廃棄物を引き取り、費用も受け取る」=物とお金が一緒に動く取引で、原価(総コスト)が後からかかります。

具体的には、処理業者はまず廃棄物とお金を受け取り、その時点で売上が立ちます。その後で人件費・燃料費などをかけて処理し、2次処理委託が必要ならその費用も支払って搬出します。これらを差し引いて残ったお金が利益です。

事業不振の処理業者が「とにかく安価で物を集められるだけ集める」行動に出ると、破格値で集めても後続の処理費・2次処理委託費を支払えば赤字になり、溜め込むしかなくなります。結果として、大量に溜め込んだ廃棄物を放置して倒産に至る事例も見られます。(図1)安易な値引き要請は、こうした事態を招くリスクをはらんでいます。

取適法(旧・下請法)から見て「理由のない値引き交渉」はどう評価されるのか

前提として、一般的な廃棄物処理委託は直接契約の原則(再委託禁止)があるため、取適法(旧・下請法、2026年1月施行)の発注者義務・禁止行為の対象には通常該当しません。以下は、あくまで「取適法の改正趣旨から読み取れる考え方」であり、廃棄物処理委託に直接的な規制があるという趣旨ではありません。

2026年1月1日、従来の下請法が改正され、通称「取適法」として施行されました。改正趣旨の多くは、発注者側に適切なコスト負担を求めるものと解釈できます。特に、改正取適法は、価格決定にあたり十分な協議を行うことを重視する考え方を示しています。具体的には、協議に応じない一方的な代金決定を禁止する規定が設けられ、上昇したコストの転嫁(市況に応じた値上げ)を認める方向での改正が行われています。

こうした改正趣旨を踏まえると、明確な理由や条件のない値引き交渉は問題視される可能性があると考えられます。一般的な廃棄物処理委託は、発注者義務・禁止行為の対象に通常は該当しないものの「市況に応じたコスト上昇を発注者が受け入れないことで、受注者が適切な品質を担保できなくなる」という構図は共通しています。多くの取引で値上げの受け入れが求められる中、廃棄物処理費用だけを「安いほど良い」という感覚で交渉することには、リスクが伴う場面が多いといえます。

(出典:公正取引委員会・中小企業庁「下請法・下請振興法改正法の概要」/ 公正取引委員会「取適法特設ページ」もあわせて参照。取適法の正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)

一律の数値目標ではなく、コストを下げられる「条件」をどう協議すればよいか

一律◯%のコスト削減目標という画一的なアプローチには、前述の不法投棄リスクと、取適法が示す「十分な協議を重視する」考え方の両面からリスクがあります。

有効なのは、本社と事業場が協力して「コストを抑えられる条件」を考え、協議していくことです。典型例は分別の細分化で、処理業者が負担している分別工数を自社で内製化し、委託コストを下げる方法です。

ただし、事業場の担当者だけで検討すると「自分たちの負担増を避けたい」「現場への分別徹底の指導で反発を招きたくない」という現実的・心理的な壁に当たります。そこで、委託と内製化をフラットに判断するために、本社が全社的な視点で意見を出すことが必要になります。単純な数値目標だけでなく、現場情報も加味して客観的に判断することが重要です。

条件を変えることで金額を見直せる可能性がある例としては、次のものがあります。

・回収頻度を下げる(保管場所を広げ、一度に多く運んでもらうことで収集運搬コストを下げる)
・配車指定を広く取る(日付をピンポイントで指定せず、例えば2週間以内で業者の都合に合わせて回収可とする)
・荷姿を変える(手間のかかるバラ積みをフレコンに変える)
・汚泥を屋根付きヤードで一定期間保管し、自然乾燥で含水率を下げてから回収する

実際に、条件の見直しでコストを削減できた実例もあります。年間600トンの廃酸(2種)を排出するオフィス用品・文具製造業の企業では、商品の出荷作業と廃棄物の回収作業を合わせて行える運搬会社とのマッチングにより運搬効率を高め、年間約50万円(7%)のコスト削減を実現しました。さらに、1種は近隣に処理できる委託先が少なく1社のみの契約でしたが、広域で処分業者を検討することでリスク分散も図れています。

有価物化でコストを削減する際に、特に注意すべき点は何か

コスト削減策を推し進めると、一部の廃棄物を「有価物化」するという方法に行き着く企業もあります。廃棄物として処理費を支払っていたものを有価物として売却できれば理想的です。有価物として売却されるものは、再利用・再資源化など、何らかの利用価値があります。ただし、品質が悪いなど資源価値のないものには値がつかないため、有価物か否かはコスト削減以上に慎重な検討が必要です。

過去には、名目上は有価物として売却していたものが、本当に有用な資源だけを抜き取られたうえで不法投棄されていた事例もあります。有価物化は、適切な知識とリスク評価のうえで慎重に検討すべきです。

コスト削減の主導が総務・購買などコスト管理を主業務とする部署の場合、廃棄物の現場知識や法知識が不足して苦労するケースもあります。その場合は、部門を超えて知識のあるメンバーの意見を集めたり、外部の専門家を頼ったりするといった選択肢も有効です。追求すべきは「とにかく安く」ではなく「最適な条件と妥当な価格」です。

自社だけで価格の適正性や処理条件の見直しを判断することが難しい場合は、処理方法や契約条件を含めて専門家へ相談することも有効な選択肢です。

イーバリューでは、全国のパートナーネットワークを活かした処分業者の広域検討や、帰り便を持つ運搬業者とのマッチングにも対応しています。ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 本社から「一律◯%のコスト削減」を指示された場合、処理業者に値引きを求めても良いですか?
A. 明確な理由や条件のない一律の値引き要請は、リスクが高く、慎重に検討すべきです。過度な値引き要請は処理業者の適正処理を困難にし、不適正処理や不法投棄につながるリスクを高める可能性があります。有効なのは一律の数値目標をそのまま転嫁することではなく、本社と事業場が協力して「コストを抑えられる条件」を協議することです。

Q. なぜ廃棄物処理費の過度な値引きは、不法投棄のリスクにつながるのですか?
A. 廃棄物処理業は「廃棄物とお金を先に受け取り、処理の原価を後から支払う」という費用構造をもっています。そのため、事業不振の業者が破格値で廃棄物を集めても、後続の処理費や2次処理委託費を払えば赤字になり、処理しきれず溜め込むケースがあります。結果として大量の廃棄物が放置されるなど、不適正処理・不法投棄のリスクが高まる可能性があります。

Q. 処理業者が値引きに応じてくれたのは、まだ利益に余裕があるということですか?
A. 必ずしもそうとは言えません。廃棄物処理業では、経営状況によっては、十分な利益を確保できない価格でも受注せざるを得ないケースがあります。値引きに応じたことを「余裕がある」と受け取るのは早計で、無理な価格での受注が処理業者の経営悪化を招く可能性があります。

Q. 2026年施行の取適法(旧・下請法)は、廃棄物処理委託にも適用されますか?
A. 一般的な廃棄物処理委託は直接契約の原則(再委託禁止)があるため、取適法(旧・下請法、2026年1月施行)の発注者義務・禁止行為の対象には通常該当しません。ただし、リサイクル後に経済的価値を有する物の運送を第三者に委託する場合など、取引形態によっては特定運送委託に該当しうるため、個別確認が必要です。

また、取適法は、価格決定にあたり十分な協議を行うことを重視し、協議に応じない一方的な代金決定を禁止する考え方を示しています。「理由のない一方的な値引き」を避けるという考え方は参考になります。

Q. 一律の値引き以外に、廃棄物処理コストを下げる方法はありますか?
A. 処理業者に負担してもらっている条件を見直すことで、金額を下げられる可能性があります。具体例として、分別を細分化して自社で内製化する、回収頻度を下げる、配車指定の幅を広げる、荷姿をバラ積みからフレコンに変える、汚泥を屋根付きヤードで乾燥させ含水率を下げてから回収する、などがあります。最適解は現場によって異なるため、本社と事業場が協力し、現場情報も踏まえて客観的に判断することが重要です。

Takeshi Sato

セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。

Takeshi Sato