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これって有価物?それとも廃棄物?

お客様から「これは有価物ですか?廃棄物ですか?」といった質問をよくいただきます。一見すると単純な問いのように思えますが、実際には判断が難しいケースも少なくありません。というのも、有価物に該当するかどうかの判断には明確な基準が存在しません。有価物の判断には「総合判断説」という判断基準が用いられることがあります。しかし、これも総合的に判断するためのあくまで一つの要素であり、実は最終的に答えがはっきりしないことが多いのです。では、実務上の判断はどのようにすべきなのか、改めて整理していきましょう。

整理する前に、そもそも【総合判断説】とは?

先ほどご紹介した「総合判断説」とはそもそも、どういった内容なのでしょうか?

これは、平成25年3月29日環廃産発第1303299号「行政処分の指針について(通知)」で「本来廃棄物であるはずのものが有価物と称して法の規制を免れようとする事例が後を絶たないことから、総合的に判断するための要素」として「総合判断説」が通知されました。
有価物は有価物となった時点で、原則として廃棄物処理法の適用を受けません。自己申告で「これは有価物です」と言っておきながら、その実態は廃棄物として不適正に処理されていた…という脱法行為が後を立たず、その対策として「総合判断」の基準が生まれたというわけですね。
通知のタイトルも「行政処分の指針について」ですから、この基準で行政処分しますよ!という…なかなか厳しい内容です。そのため、有価物と廃棄物を基準にしたがって適切に区別することは、非常に重要だということがお分かりいただけると思います。

では、総合判断説を詳しくみていきましょう。総合判断説は5つの要素で構成されています。

総合判断説はそれぞれの要素の頭に「売り物なんだから」と付け加えて読むと、分かりやすくなります。
「物の性状」を例にとってみていきましょう。
「売り物なんだから」求められる品質でなければいけない。
売り物が飛散、売り物が流出、売り物から悪臭…なんてこともあり得ないですよね。
このように、「売り物」として考えれば当たり前の基準が5つ列挙されています。

では、ここから有価物かをどう判断していけばいいのか考えていきましょう。
「この総合判断説を満たしていればOKなんだ!」と思われた方も多いかもしれません。残念ながら、この総合判断説は5つの要素を全て満たせば有価物というわけではありません。かといって1つでも当てはまらないからといって、すぐに廃棄物になるわけでもありません。これはあくまで「総合的に判断するための要素」として示されているだけなのです。

これが、冒頭で「有価物の基準は曖昧」とお伝えした理由です。
基準はあるのに「当てはまったらOKでもないし、当てはまらなかったからといってNGでもない」と言われてしまったら、結局どんなにこの総合判断説を読み込んでも、確実な判断はできないのです。

では、なぜこんなに曖昧な基準しか示されていないのでしょうか?
それは判断基準をあえて曖昧にすることで、抜け道を作らない仕組みにしているからです。

「あえて曖昧にする」とはどういうことでしょうか?
言い換えると、怪しい事案があれば、何かしらの理由で廃棄物として認定できるようになっているということです。なので、ざっくり曖昧にして、後から適切かどうかをケースバイケースで判断できるようにしているのです。
当てはまるものを有価物と認めるのではなく怪しいケースを「廃棄物だ」と取り締まる場合には、5つの基準のどれかを理由にしてNGにできる…と考えておくと良いでしょう。

では、こんな曖昧な基準の中で、実際にどのように判断すればよいのか?を考えていきましょう。

ケース①:総合判断説 ~金属スクラップ~

ケース①:金属スクラップを買い取ってもらっているが、有価物の認識で問題ないか?

金属スクラップは一般的に有価物として買い取られるケースが多く、製品として市場が成立しています。金属スクラップの買い取りを専門にしている業者も少なくありません。もちろん運搬費の方が高くなってしまう場合は逆有償として扱わなければいけないというケースもありますが、売却することで純粋に利益が出ていれば有価物としての認識で問題ありません。
(逆有償の詳細についてはこちら:【逆有償】知らないうちに違法状態に陥るカラクリ

これを5つの要素に照らし合わせて…と考えていると、余計に分からなくなってしまいますね。
今回のように有価物であることが明らかな場合は、総合判断説の要素を確認する必要はないように思います。

では、次のケースはどうでしょうか?

ケース②:総合判断説 ~貴金属を含む有害汚泥~

ケース②:自社の有価物化推進プロジェクトの一環で、貴金属を含む有害汚泥を売却しても良いか?

有価物化プロジェクト…ということは今までは廃棄物だったものを、有価物として売却したいということですね。
貴金属が含まれる汚泥ですが、有害物質も含まれるようです。

この場合…
「貴金属」の含有率などから、本当に有価として価値があるのか?
有害物質の処理は問題ないのか?
残渣物の処理コストを考慮しても、売却できるのか?
など、様々な懸念が浮かびます。

このように、本当に有価物?と迷うものは、総合判断説の要素を参考にして、慎重に判断しましょう。
場合によっては、管轄行政に問い合わせて、見解を示してもらう必要があるかもしれません。

総合判断説はあえて曖昧な基準になっている

いかがでしたでしょうか?

何度もお伝えしていますが、総合判断説はあえて曖昧に設定されています。そもそも、不適切な有価物を取り締まる目的で示された基準ですから、廃棄物を無理やり有価物にしようとしても、どこかの要素で必ず×がつくように設定されています。
実務の中では、明らかに有価物であるものまで総合判断説に照らし合わせるというより、有価物か判断に迷う際には総合判断説を照らし合わせてチェックして、それでも判断に迷うものは廃棄物として処理するというのがよいかと思います。

Madoka Sato

環境コンサルティング事業部で、法令担当として委託契約書の作成をはじめ、クライアントからの契約書や行政提出書類等に関するリーガルチェックや質問等、法令実務の相談窓口として対応している。また、廃棄物管理監査サービスでは、監査員として全国の排出企業の事務所・工場に訪問。適正管理に必要な書類や管理システムの運用状況を実際に確認し、コンプライアンスの観点で評価・改善事項の提案などを行う。

Madoka Sato

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