職場の文化や体質を考える
先日、こんなニュースがありました。 【労災の発生場所を偽った疑い 千葉市の産廃処...
コラム
物価高、燃料費高騰、人手不足…昨今の日本国内では、様々なコストが上がっています。値上がりのニュースばかりで、値下げのニュースはあまり見聞きしません。
こうした経済情勢の中で、企業も「どうやりくりするか?」に日々悩んでいます。
廃棄物処理委託費はコスト削減の検討対象として真っ先に挙げられる費用項目ではないでしょうか?
しかし、廃棄物処理費の削減もそう簡単ではありません。収集運搬業者・処理業者、燃料費・人件費をはじめとして様々なコストが上がっています。
そんな中で、さらなるコスト削減を求めることは何を意味するでしょうか?
廃棄物処理のコストとリスクについて、改めて整理しておきましょう。
目次
「今期、一律◯%のコスト削減目標が本社から出ておりまして…ご協力いただけませんか?」
経済に不安材料があると、排出事業者から廃棄物処理業者にこんな連絡が入ることは珍しくありません。「ご協力」というのは、値引きのことです。つまり「本社からコスト削減を命じられたので、その分の処理費用を値引きしてくれないか?」という要請です。
しかし、サービスの提供を受ける側として、こうした「無条件の値引き交渉」にはリスクがあることを知っておかなければなりません。ここで、過去の事例をみてみましょう。
【廃乳7トン不法投棄 元副場長に有罪判決 神戸地裁】
R牧場の敷地内に商品化できない牛乳約7トンを不法投棄したとして廃棄物処理法違反の罪に問われた元副場長に対し、神戸地裁は27日、懲役1年2か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。裁判官は「六甲山の地下水や河川、瀬戸内海を汚染する恐れがあり、刑事責任は重い」と指摘。
牧場を運営するK公社職員の被告は2016年4月~2018年8月、同罪で起訴された別の元副場長らと共謀し、食品に加工できない牛の乳計7トンを288回にわたり牧場の土中に流した。廃棄した牛乳は当初、浄化槽に流していたが、処理後に放流した排水が基準値を超え、2015年に市から改善勧告を受けた。浄化槽の保守管理の責任者だった被告は「公社に廃棄乳を産業廃棄物として処理する経費がない」と判断。部下らに土中への廃棄を指示した。
弁護側は、牧場長ら上司は実務に疎く、被告が一人で市との折衝を担っていたとし、「経費削減を方針とする公社との間で板挟みになった」と主張。公社には、職員が禁固刑以上で懲戒解雇になる就業規則があり、被告を慕った他の職員らから刑の軽減の嘆願書が集まっているとして、罰金刑を求めていた。裁判官は「上司がお飾り的存在だったのであれば、被告は廃乳を適正に処理して六甲山や瀬戸内海の環境を守る、とりでであった」と指摘。「不法投棄は詐欺的行為で懲役刑の選択は免れない」とした。
経費削減を求められ、廃棄物処理費用が事業場で捻出できなかったことで、結果として事業場内に不法投棄してしまった事例です。
「処理費用に1円たりともかけられない」と最初から不法投棄を選択していたとは考え難いので、おそらくは処理業者に交渉もした結果、価格の折り合いがつかなかったのでしょう。
仮に、処理業者が要望に沿う形で値引きできていたとしたら…
もしかすると、委託した先で不適正処理や不法投棄に発展していたかもしれません。
どの処理業者とも契約せず、不法投棄をしてしまうほどですから、排出事業者の要求する価格はかなり厳しいものであったと予想できます。
その状態で契約が成立した場合、処理業者側も非常に厳しい経済状況である可能性が高いです。
ここで把握しておかなければならないのは、廃棄物処理の費用構造です。
構造上「経済的に窮しているから、破格の値引きをする」という事態を招きやすいのです。処理業者が値引きに応じたからといって「まだまだ余裕があったんだな」と考えてはいけません。廃棄物処理業は「廃棄物を引き取って、費用も受け取る」という「物とお金が一緒に動く」取引形態です。一般的には「物やサービスを提供し、費用を受け取る」という「お金と交換」の売買やサービスがほとんどですね。
この違いが何を意味するかというと「原価(総コスト)が後からかかる」ということです。
一般的な製造業では、原料を仕入れて、人件費や燃料費などをかけて加工し、商品として販売します。ここで初めて売上・利益が出るわけです。この会社が事業不振に陥った場合、原料を仕入れたり、人を雇って商品を製造したりすることができなくなります。
しかし、廃棄物処理業では、まず廃棄物とお金を受け取ります。この時点で売上が立っていますね。その後、人件費や燃料費などをかけて廃棄物を処理し、2次処理委託が必要であればその費用を支払って搬出します。
これらの処理コストや2次処理委託費を差し引いて、残ったお金が利益になります。
もし、廃棄物処理業者が事業不振の場合「とにかく安価で物を集められるだけ集める」という行動に出るケースがあります。しかし、破格値で物を集めたとしても、その後の処理費や2次処理委託費を支払ってしまえば、赤字になってしまいますから、そのまま溜め込むしかありません。
結果、最終的に大量に溜め込んだ廃棄物を放置して倒産…という典型的パターン(図1)がありうるのです。安易な値引き要請は危険だということを、適切に理解しておきましょう。
まず前提として、廃棄物処理委託は直接契約の原則(再委託禁止)があるため、基本的に下請法の対象取引にはなりません。
以下の内容は、あくまで「改正下請法の内容から読み取ることができる傾向」という趣旨であって、直接的な規制があるというものではありません。
下請法の改正が、令和8年(2026年)1月1日に施行されます。(一部の規定は施行済み)
改正内容は複数あるのですが、その多くが「発注者側に適切なコスト負担を求める」という趣旨であると解釈できます。
特に図2の内容では、価格についての適切な協議を求めています。
「価格協議に応じず、一方的に代金を決定することを禁止」するという内容で「上昇したコストを転嫁する」つまり、市況に応じた値上げを行うことを求める内容です。
これにより「明確な理由や条件の無い値引き交渉」は違法とみなされる可能性が高いといえます。
そうです。冒頭の「ご協力いただけませんか?」は「理由のない値引き交渉」とみなされてしまう可能性が高いのです。
廃棄物処理委託は下請法の対象取引ではありませんが「市況に応じたコスト上昇を発注者が受け入れない事によって、受注者側が適切な品質を担保できない」という構図は一致しています。
世の中の多くの取引が「値上げを受入れるように」とされているのに対して、廃棄物処理費用については「安いほど良い」という感覚で交渉していると、やはりリスクを感じてしまうケースが多いと思います。

図2:中小企業庁資料(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250516_gaiyou02.pdf)
ここで冒頭の「本社から一律◯%のコスト削減目標」という話に戻ります。
・事業場の不法投棄事例
・下請法の「無条件の値引き禁止」
これらの情報から「画一的なコスト削減目標を掲げることのリスク」がご理解いただけたと思います。
では、どうすればよいのか?というと本社と事業場が協力して「コストが抑えられる条件」を考え、協議していくことです。
典型的なものは「分別の細分化」が思い浮かびます。
これは、処理業者が負担している「分別の工数」を自社に内製化することで、委託コストを削減するという方法です。
しかし、これを事業場の担当者だけで検討すると「自分たちの負担が増えるのは避けたい」「現場の作業者に分別徹底を指導して、反発されるのも避けたい」という現実的かつ心理的な壁にぶつかります。
そこで、フラットに委託と内製化のジャッジをする必要があり、本社から全社的な視点で意見を伝えることが必要です。重要なのは、単純な数値目標だけでなく現場の情報も加味したうえで、客観的に意見を出し、コストを最適化する工夫と判断をすることです。
その他にも、例えば以下のように条件を変えると金額の見直しができる可能性があります。
・回収の頻度を下げる(保管場所を広げて、一度にたくさん運んでもらえるようにして収集運搬コストを下げる)
・配車指定を広くとる(ピンポイントに日付指定するのではなく、例えば2週間以内に業者の都合に合わせて回収すればOKとする)
・荷姿を変える(手間のかかるバラ積みをフレコンに変える)
・汚泥を屋根付きのヤードで一定期間保管してから回収する(自然乾燥で含水率を下げる)
こうしたアイデアは本当にケースバイケースです。
上記はあくまで一例であり、最適解は現場によって様々です。
上記のようなコスト削減策をさらに推し進めると、一部の廃棄物は「有価物化」に行き着く企業もあります。廃棄物として処理費用を支払っていたものを、有価物として売却できれば、一番理想的です。
しかも、有価物として売却できるということは「リサイクル」とイコールです。品質が悪いなど、資源としての価値がないものに値はつきません。有価物か否かについてはコスト削減よりもさらに慎重な検討が必要です。
過去には、名目上、有価物として売却していたものが(本当に有用な資源だけ抜き取られた上で)不法投棄されていた…という事例もあります。
コスト削減も有価物化も、適切な知識を持ち、リスクを加味したうえで慎重に検討しなければなりません。
本社管理部門に工場の環境担当を経験された方がいれば、必要な知識を持って判断できる部分もあると思いますが、コスト削減の主導が総務や購買部門などのコスト管理が主業務となる部署である場合、廃棄物の現場知識や法知識が足りず、苦労するケースもあります。
こうした場合は、部門の垣根を超えて知識のあるメンバーから意見を集めたり、外部の専門家を頼るといった選択肢も必要です。
筆者は実務経験があるコンサルタントとしてクライアントのご相談を受け、最適な条件と委託先の選定をお手伝いすることがあります。重要なのは、適切な情報と知識を持って「とにかく安く」ではなく「最適な条件と妥当な価格」を追求することです。本コラムも参考に、この厳しい経済状況をより良い形で乗り越えていただければと思っています。
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。