産業廃棄物処理委託に「取適法対応」は必要か?
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コラム
2026年4月から、化学品のSDS(安全データシート)で、成分名を「営業秘密」として代替化学名等に置き換えて通知できる制度が始まりました。前回のコラムでは、この制度を「SDSを作る側(メーカー)」の視点から解説しました。
今回はその続編として、SDSを「受け取って使う側」の視点でお伝えします。成分名が伏せられたSDSを前にしたとき、現場はどう読み、どう対応すればよいのか。結論を先に言えば、伏せられるのは成分名であり、危険有害性や取扱い上の注意はSDS上で確認していく必要があります。だからこそ、油断は禁物です。
この記事の要点
目次
前回コラムの要点をおさらいします。2026年4月から、一定の条件を満たす場合に限り、SDSの成分名を「代替化学名等」に置き換えて通知できるようになりました。
ただし、伏せることができるのは成分名(化学名)だけです。下記のような、リスクアセスメントに直接関わる情報は、引き続きSDS上で確認すべき項目です。
伏せられるのは「成分名」です。有害性や取扱い上の注意は、SDS上で確認し、リスクアセスメントに活用する必要があります。
背景には、SDSによる通知対象物の急増があります。SDS等による通知対象物は順次追加されており、改正前の674物質から、2026年4月には約2,300物質規模(2,316物質)へと大きく拡大しました。
対象物質がここまで増えると、SDSにすべての成分名を記載した場合、それが事実上「製品のレシピ」になってしまうケースも考えられます。長年の研究開発で生み出した配合のノウハウが競合に渡ってしまう──こうした事態を避け、企業の営業秘密を守るために設けられたのが、今回の制度です。
成分名が伏せられているのは「メーカーの営業秘密を守るため、やむを得ず」であって、「伏せても影響がないほど安全だから」ではありません。
ここを誤解してはいけません。「営業秘密で伏せられている=大した物質ではない」と受け取るのは、危険な早合点です。
※化合物や異性体などを含めた総数は約2,900物質
代替化学名等を使える物質は、「有害性が相対的に低い化学物質」に限られています。ここだけを読むと、「だったら気にしなくていいのでは」と感じるかもしれません。しかし、これは大きな落とし穴です。
ポイントは「相対的に」という言葉です。発がん性・生殖毒性など特に有害性の高い物質は、そもそも代替化学名等の対象から除かれています。つまり「相対的に低い」とは、あくまで通知対象物の中での相対評価にすぎません。
代替化学名等で記載されている物質も、SDS通知対象物に指定された化学物質であることに変わりはなく、リスクアセスメントの対象です。「相対的に低い」を「無視してよい」と読み替えてはいけません。

【図1:SDSの記載事例(代替化学名による表示/有害性情報による表示)】
出典:厚生労働省「SDSに記載するための代替化学名等作成マニュアル」
では、成分名が代替化学名等で記載されたSDSを受け取ったとき、使う側は何をすればよいのでしょうか。
成分名が分からない場合でも、「人体に及ぼす作用」「講ずべき措置等」はSDS上で確認すべき重要な情報です。これらの情報に基づいて、これまでどおりリスクアセスメントを実施してください。
もちろん、成分名はばく露限界値の確認や法令該当性の判断など、化学物質管理において重要な情報です。ただし、代替化学名等が用いられている場合でも、SDSに記載された危険性・有害性や取扱い上の注意等の情報をもとに、自社の作業実態に即してリスクアセスメントを行うことが求められます。
成分名が代替名になっていることを理由に、リスクアセスメントを省略したり、形式的に済ませたりしてはいけません。
SDSは16の項目で構成されています。代替化学名等が用いられている場合でも、危険有害性や取扱い上の注意はSDS上で確認できます。特に入口として確認したいのは、次の項目です。
第2項「危険有害性の要約」
その化学品のGHS分類、危険有害性の区分、注意喚起語(「危険」「警告」)や注意書きを確認します。まずここで、どのような危険有害性があるのか全体像を把握します。
第8項「ばく露防止及び保護措置」
ばく露限界値、保護具、換気等のばく露低減措置に関する情報を確認します。ばく露限界値が示されていない場合でも、保護具や作業環境管理に関する記載を確認することが重要です。
第11項「有害性情報」
急性毒性、皮膚腐食性、特定標的臓器毒性など、人体への具体的な影響を確認します。
成分名が「営業秘密」で伏せられていても、使う側はこれらの項目を確認し、リスクアセスメントの判断材料として読み取る必要があります。記載が不足している、又は判断に迷う場合は、供給元に確認することも重要です。なお、実務上は第4項「応急措置」、第7項「取扱い及び保管上の注意」、第15項「適用法令」なども併せて確認します。ここでは、リスクアセスメントの入口として特に重要な項目に絞って整理しています。
受け取ったSDSを前に、まずは次の順で読み進めると整理しやすくなります。
① 有害性を確認する
第2項・第11項で、その物質がどのような危険性・有害性を持つかを把握します。
② ばく露状況を評価する
自社の作業で、その物質にどの程度ばく露する可能性があるかを、取扱量・頻度・作業方法・換気状況などを踏まえて確認します。第8項にばく露限界値や保護具の情報が示されている場合は、これも確認します。
③ 対策を検討・実施する
評価結果に応じて、設備対策、作業手順の見直し、保護具の選定などのばく露低減措置を検討します。
成分名が代替名であっても、基本的な確認の流れは変わりません。ただし、SDSの記載だけでは判断が難しい場合は、供給元に確認することが重要です。
万一、健康障害が生じ、医師による診断・治療のために成分情報が必要になった場合には、医師又は医師の指示を受けた者から求めがあれば、秘密保持契約等を求めることなく、成分情報を直ちに開示する仕組みも設けられています。代替化学名等を記載したSDSには、こうした緊急時のための連絡先(緊急連絡先)が併記されます。受け取ったSDSにこの連絡先が記載されているかも、確認しておきましょう。
代替化学名等の制度は、メーカーの営業秘密を守りながら、使う側の安全衛生も確保するために設けられたものです。だからこそ、制度上は危険有害性情報が適切に伝達されることを前提としています。使う側に求められるのは、その情報を軽視せず、確実にリスクアセスメントへつなげることです。
リスクアセスメントを実施した場合は、対象物の名称(SDS上で通知された名称・代替化学名等を含む)、業務内容、リスクアセスメント結果、結果に基づき講じる措置の内容などを記録し、保存することが求められています。代替名のSDSだからといって例外ではありません。
「営業秘密」は、リスクが低い物質という意味ではありません。有害性情報を確認し、リスクアセスメントを必ず実施・記録する。これが、代替情報のSDSを受け取った使う側の責任です。
※ 本記事は2026年6月時点の情報をもとに作成しています。制度の詳細は、下記の指針・通達をご確認ください。
【参考】
※参考1:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律等(代替化学名等関係)の施行について(基発0220第5号・令和8年2月20日)
※参考2:通知対象物に係る代替化学名等の通知に関する指針(令和8年2月20日公示、公示第1号)
※参考3:SDSに記載するための代替化学名等作成マニュアル(厚生労働省)
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。