【排出事業者責任】汚水垂れ流しで取引先が欠格に!排出事業者は見抜けるの?

【排出事業者責任】汚水垂れ流しで取引先が欠格に!排出事業者は見抜けるの?

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【排出事業者責任】汚水垂れ流しで取引先が欠格に!排出事業者は見抜けるの?

今回は、欠格要件について、実際のニュースをもとに解説していきます。

名古屋にある国内最大級の食品リサイクル工場から、排水基準を満たしていない汚水を未処理で放流していたとして、社長と工場長代理の男性が逮捕されたというニュースです。

このニュースを排出事業者の立場に立ってみると、筆者は2つの観点から問題を感じます。
①このリサイクル工場は、事業継続できるのか?
②排出事業者はこの不正を見抜けるのか?

上記の疑問について、詳細に解説していきます。

欠格要件は会社に適用される!問題の工場は事業を存続できるのか?



まず、「このリサイクル工場は、事業継続できるのか?」という問題に対して、筆者は高確率でNOだと思います。

ですが、事件を起こしたリサイクル工場の運営会社を見てみると、HPには「弊社代表取締役社長ら逮捕について」というタイトルで、代表取締役を解任した旨と共に「業務は平常通り継続してまいります」と記載がされていました。

さて、現実的に事業継続が可能なのか?確認してみたいと思います。不祥事が起こった企業は、顧客の流出による収益悪化や、是正措置による管理コストの急増など様々な理由で事業継続が危ぶまれることがあります。ただし、今回のコラムでは欠格要件に該当するか?といった点に限って考えます。つまり、事業継続とは一般廃棄物及び産業廃棄物の許可が存続するか? ということです。

社長を解任したというのも、逮捕された時点で欠格要件に該当する「禁錮刑以上の刑」が課せられる可能性が高いと判断したのだと思われます。

役員の犯罪による欠格要件に関しては、こちらのコラムで解説しております。
>>>道路交通法で許可取消。予測不可能な欠格要件

しかし、欠格要件は役員個人だけではありません。どちらかといえば会社に対する欠格要件がメインとも言えるでしょう。

欠格要件とは?個人と法人に課せられる2種類の要件!


廃棄物処理法での欠格要件は、大雑把に分けて2種類あります。禁錮刑以上で欠格になるものと、罰金刑以上で欠格になるもの、言い換えれば、個人に対してのみ適応される欠格要件と、法人に対しても適応する欠格要件があるのです。

該当する欠格要件の違い

どのような違いがあるのか説明していきます。禁錮・懲役(死刑はさすがに除外します)は、個人を監獄に拘留し自由を奪う刑です。(余談ですが、禁錮と懲役の違いは、受刑者に労働を強制するかどうかだそうです。労働があるのが懲役です。)

必然的に法人を投獄することは出来ないので、個人に対してしか適用されません。そのため、禁錮刑以上で欠格になる法律には【個人】を対象としています。

法人に対しては、両罰規定によって主に罰金刑が課せられます。罰金刑以上になると欠格になる法律には、「水質汚濁防止法」も指定されています。

ということは、冒頭でご紹介したニュースのうち、逮捕された2名の個人にとどまらず、会社に対して罪が追及され、罰金刑が確定した場合は、欠格要件によって許可が取り消されます。

報道では、会社のマニュアルに「汚水は処理せず雨の日に流す」という内容があったなどの情報もありました。おそらく会社に対しても、厳しい捜査が行われるでしょう。

欠格要件に該当するような取引先かどうかを気付けるのか?

次に、排出事業者はこの不正を事前に見抜くことができたのか?という問題です。残念ながら、排出事業者の立場では事前に見抜くことは不可能に近いと思います。

今回のニュースでは、汚水を流していたのは夜中であり、行政の立ち入りがある時はきれいな水を流していたとされています。そこから分かるように、隠蔽工作が徹底され、カモフラージュする体制ができていたのではないかと思われます。

また、行政の立ち入りは、特に強い疑いがない場合は、事前にアポイントを取ることが一般的なようです。この時だけ、カモフラージュする体制ができていたのでしょう。ということは、排出事業者が実地確認を行おうとしても、十中八九、カモフラージュされていたと思います。夜中に張り込むわけにもいかず、そもそも、そんな疑いがあるのであれば委託先を切り替えたほうが簡単で安全です。

また、アポなしで訪問しようとすることは、民対民の取引においてはかなりの強硬手段ですから、良好な取引関係が崩れる可能性が高くなってしまいます。仮に、強行突破で訪問したとしても相手に断られれば、行政や警察とは違うので、それ以上踏み込む事ができません。

今回のニュースをうけて、排出事業者が備えられること


では、他の方法で見抜く方法はなかったのでしょうか?
残念ながら、直接的に見抜く方法は思い当たりません。今回は食品廃棄物処理後に発生する「汚水」の問題です。実際に委託した廃棄物自体の処理に問題があったというケースとはワケが違います。
委託するモノ自体であれば、その成分や性状から処理方法が適切なのかどうか?リサイクル後の製品販路は適切か?などの観点から確認できる可能性もありますが、汚水となるとそうはいきません。

リサイクルに伴う副産物の取扱ですから、ブラックボックスです。

排出事業者責任をしっかり全うすることが大切

結局、問題を発見すると言うよりも問題が起こったとしても「排出事業者責任を全うしている」といえる状態を作っておくことが重要ではないでしょうか?

例えば、委託契約書やマニフェストに不備がないようにするなど、自社ができることを徹底します。また、返送されるマニフェストなどをしっかりと確認しておくと、もしかしたら不自然な点が見つかる可能性があります。そこから間接的に疑いを持つことができたかもしれません。一般的に、不適正な処理を行うということは、周辺の書類管理などもずさんになりがちです。

このように、できるところを確実に行うことが、遠回りに見えてもリスク回避の近道ではないでしょうか?

Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー

セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。