【令和7年4月公布】 廃棄物処理法改正①‐委託契約書の法定記載事項追加‐
令和7(2025)年4月22日、廃棄物処理法の一部改正が公布されました。内容は「...
コラム
前回に引き続き、廃棄物処理法改正に関する解説です。前回は「委託契約書の法定記載事項追加」を解説しました。今回は「電子マニフェストの項目追加」について解説します。
施行日は令和9(2027)年4月1日ですが、本年5月からJWNETのシステム上では追加項目が整備され、任意項目として登録可能な状態となっています。
そのため、既に感度の高い事業者からは改正対応にまつわる問い合わせも寄せられています。排出事業者にとっては、中間処理以降の2次処理、3次処理、再生(リサイクル)の状況について、具体的イメージが付きづらく、改正内容の理解が難しい側面もあります。
処理業界の実態と照らし合わせながら、法改正の具体的なイメージを持っておきましょう。
改正の対象者は処分受託者(中間処理業者・再生および最終処分業者)です。
中間処理業者など処分受託者が、電子マニフェストを通じて「最終処分終了報告」を行う際の項目が追加されます。従来「最終処分終了年月日」と「最終処分を行った場所の所在地と名称」が報告事項でした。ここに新しい項目が追加されるのですが、該当条文がこちらです。
廃棄物処理法施行規則第8条の34の3の2
(処分受託者の情報処理センターへの再生に係る報告)
処分受託者は、法第12条の5第3項の規定による報告(産業廃棄物の処分が最終処分であるときに限る。)を行うとき又は同条第4項の規定による報告を行うときは、受託した産業廃棄物について最終処分が終了するまで又は再生を行うまでのすべての処分について、各処分ごとに、情報処理センターに次に掲げる事項を報告しなければならない。
一 処分を行つた者の氏名又は名称及び許可番号
二 処分を行つた事業場の名称及び所在地
三 処分方法
四 処分方法ごとの処分量(当該処分量を的確に算出できると認められる方法により算出される処分量を含む。)
五 処分後の産業廃棄物又は再生された物の種類及び数量(当該数量を的確に算出できると認められる方法により算出される数量を含む。)
つまり、今までは最終処分先の情報だけで良かったものが、報告事項はすべての工程になるので、最終処分または再生に至るまでのすべての処分方法について追加報告が必要になります。今後は最終処分以外のすべての処理フローについても、処分方法や処分量など含めて報告することになります。
環境省が公開している改正前後のイメージが図1です。
図1:追加項目のイメージ
https://www.env.go.jp/content/000271536.pdf?utm_source=chatgpt.com
中間処理から最終処分・再生まで複数の処分工程がある場合、それぞれの工程情報が同一の電子マニフェスト上に追加登録されていきます。
中間処理時の選別などによって、再生と処分のように処理フローが枝分かれする場合も同様に情報が登録されます。その際、それぞれの工程で業者情報だけでなく、処分方法と処分量、処理後物の種類と量も登録されます。これにより「これまでマニフェストからは得られなかった直接委託先と最終処分先以外の処分先情報等が得られるようになる」とされています。
これらの項目は電子マニフェストにのみ追加され、項目拡張の仕組みがない紙マニフェストは対象外です。電子マニフェストだけに負担を増やすことに違和感がありますが、負担を強いられるのは排出事業者ではなく中間処理業者など処分受託者です。
排出事業者が電子マニフェストの継続を希望すれば、負担が増えるからといって電子マニフェストの対応をやめ、紙マニフェストのみの運用に戻る中間処理業者はほとんどいないだろうという政府の判断かもしれません。
今回の改正では、中間処理業者など処分受託者に新たな義務が課されるため、排出事業者の立場では、得られる情報が増えることになります。排出事業者側のメリットとしては、最後までの処理フロー全体が見える化されることで、排出者としての処理責任が貫徹できる点が挙げられています。
従来は「最終処分先」しかマニフェストで追跡できず、中間処理以降の詳細情報が不十分でした。今回の改正により、排出事業者は「自分の廃棄物がどういう処理を経て、どのように最終処分・再資源化されたか」を電子マニフェスト上で把握できるようになります。したがって排出事業者側は「法改正に対応する」というよりは「追加される情報をどう受け取るか?」ということを考える必要があります。
そこで筆者が気になるのは新しく登録される情報は「どれほどの正確性があるものなのか?」ということです。これは、懐疑的な意味での疑問です。具体的なケースを想定して考えてみましょう。(図2)
図2:処理フローのイメージ
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中間処理会社Aは、廃プラスチックの選別、破砕、圧縮許可を持っている。
顧客から回収したコンテナ入りの廃プラスチックを選別工程にかけ、再資源化可能な物を破砕・圧縮し、リサイクル施設aに出荷する。
再資源化が難しいと判断された物は、破砕後に焼却処分場Bに出荷する。
リサイクル施設への出荷量と焼却処分場Bへの出荷割合は概ね8:2である。
焼却処分場Bでは、焼却によって燃え殻とばいじんが発生する。
燃え殻とばいじんはそれぞれ異なる最終処分場C、Dに出荷する。
燃え殻とばいじんの割合は、概ね1:9である。
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まず中間処理会社Aの処理を経て、リサイクル施設aと焼却処分場Bに枝分かれしています。その比率は8:2となっていますが、もちろん様々な排出事業者から受け入れた廃棄物を混合して出荷しています。排出事業者の半分以上がリサイクル不可となるコンテナもあれば、すべてがリサイクル可能なコンテナもあります。
しかし、それを都度把握することは困難です。多くの場合、中間処理工程では複数社の廃棄物をまとめて処理します。
排出事業者ごとのコンテナを最小ロットとして、内容物の割合を記録しつつ処理を行うというのは、現実的ではありません。そのため「◯月◯日に△△社から受け入れたコンテナの内容物比率」といった情報は正確な実態としては分からないのです。
実際の比率を把握しようとすると、作業工数が膨れ上がり、コスト面からも適切ではありません。
ではどうするかというと、リサイクル施設aと焼却処分場Bへの出荷比率をそのまま、貴社のコンテナ比率に転記する…というパターンが多いと思います。できたとしても「△△社はだいたい6:4だな」というレベルで最初に比率を決めて当てはめるくらいです。
しかし、これを行った場合、各社の設定比率を機械的に当てはめると実際の出荷量と合わなくなるので、最終的には人の手で数値上の”帳尻合わせ”をしなければなりません。
さらに、その先の焼却施設で処理した際の「燃え殻とばいじんの比率」と、複数の排出事業者由来の廃棄物が混合した状態で焼却した時の「貴社が排出した廃棄物の組成に基づく燃え殻とばいじんの比率」などは、ほとんど分からないといってもいいでしょう。スペースの都合上、上記処理フローは簡略化しています。実際にはさらに複雑なケースも多く、実務上での処理フロー及び数量把握は、より一層困難を極めます。
結局、中間処理業者ができるのは出荷状況に応じて使い分けるパターンをいくつか作っておいて、実態と関係なく当てはめていく…ということだと思います。
条文には「処分後の産業廃棄物又は再生された物の種類及び数量(当該数量を的確に算出できると認められる方法により算出される数量を含む。)」との文言があります。
何を以て「的確」かはともかくとして、実測値ではなく独自に算出した数値でもOKとなっているのです。JWNET上の機能でも、あらかじめ処理先と処分方法ごとの割合(%)などを設定した報告パターンが作成できるようになっています。(図3)
結局は、最低限のパターンに当てはめられた「ざっくり換算値」になってしまうケースがほとんどだと個人的に予想しています。一般的な中間処理業者は、実測が困難なため標準的な歩留まりや比率設定など合理的な算定方法(ざっくり換算値)を用いて算定すると思われます。
このように、データとしてはリサイクル率などが算出可能になるとは思いますが、仕組みを知ってしまうとあまり信頼性の無い数字になる可能性があります。
処分受託者は、実態と合わない建前上のデータを入力するために相当な工数負担を強いられることになるので、多くの中間処理業者が施行ギリギリまで対応できないのではないでしょうか…?
すでにJWNET上では機能改修が行われ、2025年5月から追加項目が登録できるようになっています。義務化されるのは2027年4月1日からなので、それまでは任意項目として試験的に使用されることになります。
ほとんどの中間処理業者などが「ざっくり換算値」を入力してくると仮定して、排出事業者は施行後になにか対応しなければならないことがあるのでしょうか?まず結論から先に言えば、法律上の直接的な義務はありません。
義務を課されるのは中間処理業者など処理受託者です。排出事業者には、マニフェストの確認義務に従って、報告内容を確認する義務があります。しかし、委託契約書には最終処分先の記載が義務付けられていますが、今回のマニフェスト追加項目に該当する内容は記載の義務がありません。
そのため、マニフェストに記載された追加項目を照らし合わせることもできません。言い換えると、委託契約書の法定記載事項(施行規則第8条の4)には本改正項目は追加されていないため、契約書との照合義務は生じない、ということです。
一部の自治体では、委託先に定期的に訪問する「実地確認」が条例で義務付けられていますが、対象は直接委託先に限られ、最終処分先を含め、中間処分業者が出荷した先の業者は対象外です。
条例は、もちろん各自治体の判断で改正される可能性がありますが、本件に限っては実地確認義務の対象が広がる可能性は極めて低いと判断しています。
仮に「枝分かれした処理フローの全てを訪問しなければならない」となってしまうと、訪問先が爆発的に増え、担当者は実地確認に忙殺されてしまい、現実的な方策とはいえないからです。
電子マニフェストの項目追加の改正に関して、排出事業者は、本稿で述べたとおり、あくまで参考情報として、追加された内容を確認することになります。
中間処理業者など処分受託者(JWNET使用)は、2025年5月からシステム上で任意入力が可能になっていて、2027年4月からは義務化されます。したがって、現段階では追加情報を事細かにチェックする必要はありませんが、改正法施行後は、最低限「再生など最終処分先以外の情報が追加されているか?」は確認しておきましょう。
先述の通り「実務上、正確な数値は入力できない」という現場の事情はありますが、その中でも換算値を使って改正対応をしているのか、改正法が施行されても全く対応していなのか、これらによって受ける印象は全く異なります。
処理委託先で改正法への対応が適切に行われているかどうかは、委託先の信頼性を推し量る上で重要な要素です。中間処理業者の数値はあくまで参考程度に、項目追加の対応状況はシビアにチェックしていきましょう。
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。